※以下は2003年の「田中がつぶやく」「えすで〜ニャいん?」に掲載したものを統合し、
 加筆、再編集したものです。

スタジオダックスのサイトを訪れ、このコラムを読む人の何人がシグマと言う日本の光学機器メーカーを知っているでしょうか。プロ、アマを問わず一眼レフカメラを扱っている人には非常に有名なカメラレンズメーカーです。安く性能のいい個性的なレンズを多く開発していて、日本より海外の方が知名度が高いかもしれない。レンズメーカーと言いましたが昔から個性的なアナログカメラも作っていてカメラメーカーでもあるのです。でもほとんど市場には出ていない、中古市場にもほとんど存在しないカメラばかりです。

そんなシグマがデジタルカメラを開発中、しかも一眼レフタイプ、しかもフォビオン社と言うアメリカのベンチャー企業が開発したまったく新しいイメージセンサを搭載するとの雑誌記事を読んだ当時、正直全然ピンとこなかった記憶があります。それから数年、私の記憶から完全に消えていたシグマの一眼デジカメが発売されました。それがSD9でした。たまたま各社の一眼デジカメを物色し始めていた時期とも重なってSD9の事も調べはじめたらサァ大変。とんでもない代物だと徐々にわかって来たのでした。面白くなってきた。

デジタルカメラを使い出したのは1997年ころでしょうか。きっかけは単純に枚数を多く撮るので経済的な事情と未熟な腕をPCレタッチでカバーできる事の2点でした。コンパクトデジカメをそれなりに使っていたのですが、次第にそれらが吐き出す画像が物足りなくなってきました。で、レンズ交換式一眼レフタイプのデジタルカメラを物色し始めたのが苦行の始まりだったのでした・・。


大手カメラメーカー各社のデジタル一眼レフカメラを比較しますが、どれも似たりよったりの性能。しかも当時のデジタル一眼はそれなりの性能のモノは交換レンズを含めてバカ高いモノでした。そんな時にフッと目に止まったのがシグマと言う聞いた事のないメーカーのSD9。値段は安い。でもねェ・・

 

そもそもシグマって知らないもん。韓国?えっ日本なんだ。ふ〜ん。

その後、さらに情報収集を進めて以下の事が解りました。

 

●SD9はナマの情報を得られるカメラらしい。
 それは撮影者の技量が要求される事を意味する。

●SD9はシグマにとって初めてのデジタルカメラと言う事もあり、
 カメラ自体の完成度はかなり低いらしい。

●肝心の画像は生々しく、とっても個性的な発色をするらしい。


そしてシグマというメーカーはかなり好感をもてる事もわかってきました。

う〜ん・・。いくら一眼デジカメの中でも安い方の部類に入ると言ってもレンズやモロモロそろえると最低のシステムでも30万はするカメラなので悩みます。しかも悩んでいる間に他社から同価格帯のかなり完成された一眼デジカメが発売になったりしてますますフラフラする日々を送る事になります。

 

とっても天気がいい日でした。リフォーム現場からの帰り道、気付くと新宿の家電量販店の前に立っていました。で、その30分後にはSD9一式をかかえてニヤニヤしている気持ち悪いおじさんになっていました。まあ半年悩んだ結果はあっけないものでした。かなり素人には扱い難いカメラである事はまちがいなく使いこなせるか不安はありましたが、その画質とスピリットに優る物はなしと確信したのでした。また、マイナーなメーカーが大好きで人があまりもっていないモノが大好きの性分がそうさせたのでしょう。

以前から仕事上の写真を撮る機会は多いのですが、あくまで「記録」の域を超えないレベルです。だから普段の生活でコンパクトカメラではなくデカく重い一眼レフカメラをぶら下げて出かける事なんてまったく想像できない事でした。これもSD9と言うカメラの作る絵にホレ込んでしまったに尽きますね。

 

SD9はスゴイと言っていますがそれは核心を外しています。シグマのSD9がスゴイと言うより搭載されたフォビオン社のイメージセンサがスゴイと本当は言うべきなんですよ。ベイヤー方式じゃないローパスフィルター不要のFoveonX3と言うイメージセンサが革新的なのです。まぁこのアメリカのベンチャー企業が開発したまったく未知のセンサを搭載する英断には「シグマさんよくやった!」と賛辞を贈りたいのですが、カメラ自体の完成度を考えると、ウーん何だかねェ・・日本の技術はどこへ?・・と思ってしまう訳です。幸いシグマのレンズは世界的に定評があって、そのレンズの性能を最大限発揮できるカメラを自社で作ると言うスタンス。大手に横並びじゃ作る意味がないので「イイ」ものなら積極的に受け入れる土壌があるのでしょう。変なプライドで身動きとれない大手メーカーとはここが違うし、そういう部分が大好きだったりするのです。

 

だからシグマさんに愛を込めて「SD9はスゴイ」と言ってもイイかな?

手強いカメラです。購入前も解んない事だらけ、購入後も問題噴出。一眼レフカメラなので写真やカメラの基礎知識や基本テクニックはもちろん、SD9独特の癖がかなり強いのでまともな絵になるまで試行錯誤の連続です。幸いにもSD9には最強の掲示板が存在します。集まる人達はみなオトナで初心者にも優しく、知識も技術もスバラシイ皆さんです。さらに真面目に写真を議論するげに恐ろしい画像掲示板にも参加し、当時は勉強の毎日でしたね。

 

FoveonX3は構造がシンプルで光の情報をダイレクトに取込むのでレンズ性能が如実に表現されます。さらに撮影者の作為、不作為もダイレクトに絵になって現れます。デジタルカメラを使いだした頃の腕の未熟さをレタッチでカバーできると言う次元とは明らかに異なり、写真としての表現がデジタルカメラでも可能になってきた事をSD9は教えてくれるのです。

最初は仕事で使う事が主な目的で購入したSD9ですが、一眼レフカメラの楽しみや写真表現の深さを改めて知る結果となりました。使えば使うほど新しい発見があります。そしてデザイナーである私の感性のツボに見事にハマった感じがします。圧倒的な解像感と質感、コントラストの高い独特の発色。

 

そして扱いにくさ(苦笑)

 

お世辞にも工業製品としての完成度は高いとは言えないのですが、それがSD9と言うデジタルカメラの個性なんだと納得できる、極めてアナログ的な感覚を持ったデジタルカメラなのかもしれません。近い将来にはSD9の後継モデルが登場する事でしょう。多分グレードアップしたFoveonセンサを搭載しているでしょう。もう少し使い易くなっているでしょう。でも、大手カメラメーカーが作る様な媚びを売った万人向けのカメラで無い事を祈っています。シグマでなければ出来ないデジタルカメラに仕上げて下さい。時間はいっぱいかけて良いですよ。成績悪くてもイイんです。秀でた個性と才能があれば。

(その後、SD10、SD14、SD15、SD1、と進化していきます。期待通りに独自路線を貫き、幸か不幸かマイナーな存在のままですね)

とても扱いにくいSDシリーズは「じゃじゃ馬」を通り越して「暴れ馬」と評されます。しかしそれを乗りこなした時の絵はスバラシイの一言で、皆これでSDシリーズにハマってしまう様です。2012年現在、SD15とSD1Merrillの二機種が新品で購入可能です。SD9も中古なら手に入る事でしょう。でも・・
もし、ここを読んでシグマのSDシリーズを買ってみようなんて思ちゃったらちょっと待って下さい。

 

●SDシリーズは一眼レフカメラです。多少でもカメラや写真の知識が必要に
 なります。または勉強する覚悟が必要です。私はデザイン学校時代に
 写真の勉強をしました。かなりブランクがありますが基本は知っている
 ので購入する気になりました。

 

●最近のSDシリーズはだいぶ良くなりましたが、大手カメラメーカーの
 デジタル一眼に比べると完成度は低いです。
 だから色々と勝手が違ったり不具合がありますが、
 笑って見守ってあげる必要があります。決して怒ってはいけません。

 

●最近のSDシリーズはカメラ本体だけでJPEG画像も生成しますが、やはり
 フォビオンセンサの能力を生かすには大きなRAWデータを扱う必要が
 出てきます。MacでもWinでもどちらでも良いですから高速大容量の
 コンピュータを用意する必要がありますね。

 

以上が納得できる方は買いです。 面白いデジカメをお探しならシグマのSDシリーズの右に出る物はありません。逆に言うと、簡単に撮りたい方、失敗が許されない場面で確実に撮りたい方にはまったく向きません。苦労してでも新しいデジタル画像を体感したい方、リアル解像に溺れたい方には激しくお薦めです。
(スタジオダックス/田中賢二)