「たまプラーザS邸」として以前からWorksで紹介しているSさんは某有名ヘアサロンチェーンの自由が丘店トップデザイナーとして活躍されていました。2006年春、独立の為に円満退社し、ヘアアーティストとして、職人として、そして今度は経営者として自身の理想を実現する作業がスタートしました。

お宅をリフォームして以来、スタジオダックス笠井はSさんのカットがお気に入りで自由が丘まで通っていた為、Sさんの動向は把握していました。本来なら店を辞める前に最低でも物件を決定し、できれば設計も完了、すぐに内装工事スタートくらいの段取りが望ましいのですが、Sさん曰く「同時に複数の事が考えられない」と・・・
Sさんの性格はよ~く把握しているので「らしい」けどねェ(苦笑)

結局、辞めた後からすべての事がスタートです。

なんと物件は桜新町近辺に固まり
つつあるようです。ウチから近くて
イイね~。数件に絞った段階で一緒
に見に行きます。立地と広さと家賃、
ヘアーサロンの命とも言える設備関
係を中心に見て行きます。その中の
一物件、予定していた広さよりかなり狭いけど繁華街からポツンと離れた立地と自然光が差し込む好物件です。狭さは設計でカバーできます。逆に少数精鋭のスタッフで店内全体が見渡せるメリットの方が最初の店としてはイイかもしれないね。
さっそく現調、基本設計スタートです。

まずは最初の打ち合わせ用に「たたき台」としてプランをスケッチします。

・セット5面
・シャンプー3台
・カラーリングカウンター
・レセプション、クローク
・トイレ、パウダールーム
・バックヤード
・ファサード造作、看板

それら最低限の条件を約70平米にプランします。窓の位置、エントランスの位置、排水の経路、シンプルな長方形空間、等々好条件の空間も幸いしてちょっと狭いけど結構スンナリ余裕のあるプランが展開できます。シンプルな構成の中にスタジオダックスらしさを盛り込みつつ予算内になんとか収まりそうな感じだな〜。
Sさんの感性や好みは把握しているし、デザインに関してはおまかせ頂いているので余裕ブッコキで初回の打ち合わせに臨みますよ。

ところがSさんが開口一番「これ使いたいんですよ」と言い出した。

「YUME」というシャンプーベッド。デカッ!!しかもスライドしながら上下昇降、バックシャンやヘアケアの為に前後に空間も必要。さらにこのデザインだから間隔を空けて並べないとカッコ悪い・・通常のシャンプー台の倍は空間を占有しそうです。

 

「う~ん・・どうしても?」
「ハイ!」
「やっぱり3台必要?」
「ハイ!」

その子供の様な笑顔には「決定事項」と書いてあるのがハッキリ見えます・・。プランを根本から考え直す必要がある事、バックヤードやストックなど他の空間が犠牲になる事を説明して仕上げや作業動線などを打ち合わせして初回打ち合わせが終了です。

余裕はあっけなくフッ飛び本気モードに突入するのでした。住空間と違ってやっぱり店舗は甘くない・・。

条件が悪いほど良いプランは生まれるモノです。ムダな空間を排除し遊びの空間は残す。シンプルにシンプルに発想してそぎ落としていきます。そうして以前のプランより余裕があり、床のスキップや天井の造作で実面積より広く感じるサロンプランが完成しました。

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